映画『鑑定士と顔のない依頼人』感想
ともかく、この件に関して何かを書いておかなければ、どうにも落ち着かないのだ。
つまり、それだけ心を揺さぶられてしまった、ということかもしれないが。
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内容(「キネマ旬報社」データベースより)
『ニュー・シネマ・パラダイス』のコンビ、ジュゼッペ・トルナトーレ監督と音楽、エンニオ・モリコーネが手掛けたミステリー。天才オークション鑑定士の男が、姿を見せない女からの謎めいた鑑定依頼に翻弄される様を描く。ジェフリー・ラッシュ主演。
劇場公開時から、ぜひ観たいと思っていたが、そのままになり、DVDになっているのに気づき、即、借りた。
以降、なるべく抑えようとは思うが、恐らくネタバレ的な要素が少なからず含まれる可能性があるので、観ていない方はご注意ください。
観ていて、確かに「何となく変だな」というか、「本当にこんなことがあるのかな」という思いもあったが、しかし、「いや、こういう状況なら、あってもおかしくないのかもしれない」とも思った。
また、それ以上に、というか、そんなことより、「何か恐ろしいことが起きてしまうのではないか」という不安感みたいなものが強くて、物語を追うのに必死だった。
だから、そう、何かが起きるのではないかとは思っていたんだけど、ああいう種類のことだとは疑っていなくて、つまりは私もすっかり騙されてしまっていたのだ。
だから、彼がいつものようにあの部屋に入り、そして何かに気づいて一瞬よろめいた、その彼の視界に広がっていたものを目にした時、私もまたかなりの衝撃を受けてしまったのだ。
あの展開は、予想していなかった。恥ずかしながら。
(そうなの、騙されやすいのよ、たぶん私……。ま、「素直」ってことにしておきません?)
彼が最後の仕事を終えた時、握手を求めてきた「相棒」のビリーに、私はおびえていた。
握手をすると見せかけてナイフで刺すのではないか?と。
今にもそうしてもおかしくなさそうな、ビリーだった。
その恐怖というかハラハラ感をたっぷり観客に味わわせる、そんなシーンだった。
そうじゃなくて、ホッとしたのに。
ビリーの考えていたのは、もっと、違うことだったのだ。
ただ、あの虚しすぎる、むごすぎる壁のシーンは胸に突き刺さったけど、そしてまたオートマタのくだりも胸が悪くなるようなものではあったけど、でも、実を言えば完全に彼に感情移入できたわけではなかった。
一抹の、「自業自得かもしれない」という思いもあったのだ。
自業自得とまでは言えないにしても、少なくとも、ある意味でこうなっても仕方ないだけの種は、まいていた。
自分だけよかれと思いすぎたことの、報い。
それにしてはひどすぎるかもしれないけど、でもそうされても文句は言えないほどの扱いを他人にしてきたということだったのではないか。
そうなの。そう思いたいの。
彼がただただかわいそうで、ひどい目に遭わされた、気の毒な被害者、とは思いたくない。
その視点には耐えられない。むごすぎて。
だけど、因果応報的な意味もあったんだと思えば、少しは客観的には受け入れられなくもない。
それに、一つには、必ずしも彼にとって悪いことばかりでもなかったのかもしれない、という視点すら、ある。
つまり、あのまま彼にとって何事もなく平和裡に物事が推移して、一人ぼっちで自分なりには満たされて老後を生き、一生を終えたらそれはそれで幸せだっただろうけど、でも、そこにおいては「燃え上がる」とか「やむにやまれぬ」とか「天にも昇る」とか、そういった類の激しく力強い生命の躍動の余地はなかったはずで、その意味で、そうした心の動きを曲がりなりにも体験できたことは、あくまでも客観的にはだけど、ねえ、それもまた悪くなかったんじゃないの?と言ってあげたい気持ちもある。
最後のシーンに象徴されるように、彼の中には彼女が再び現れるのを待つ気持ちが完全に消えることはなかった。
あれは全て嘘ではなかったんだと、その中にひとかけらでも真実はあったはずだと、彼は信じたいのだし、それは少しも間違ったことでも否定されるべきことでもないし、あるいは本当にそうかもしれないのだ。
――というように、すごくいろんなことを考え続けてしまって、なかなかこの作品から抜けられない。
だから、書いた。
これで、抜けられるかな?
とにかく、すごくよくできた作品でした。
普通の人は、私ほどすっかり騙されたりはしないものかな。
これぐらい騙されきって観ることができると、最高に堪能できるね。
人が生きるってどういうことなのかな、というのを、また別の面から、いろいろな意味で考えたり感じたりすることができた。
観てよかったなあ、と、しみじみ。
まだの方は、ぜひ「素直」な心でご覧ください(笑)。
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