瀬尾まいこ『おしまいのデート』を読んで
おしまいのデート (2011/01/26) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
内容紹介
いろんな形の「デート」、あります。
祖父と孫、元不良と老教師、特に仲良くもない同じクラスの男子同士、協力して一緒に公園で犬を飼うOLと男子学生。何気ないのに温かい人と人のつながりを軽やかに描く、5編収録の作品集。
内容(「BOOK」データベースより)
この世はいろんな“デート”で溢れてる。待ち合わせが生み出すワクワクする気持ち、楽しいひととき、別れる時のちょっとした切なさ。
この作家は、派手さはないですが、いい作品を淡々と(かつ坦々と)出し続けている印象。
わりと好きなので、新刊が出ると読んでしまう。
前作の長編『僕の明日を照らして』は、残念ながらあまり成功しているとは言えない作品だったと思うのですが、こちらの短編集は、悪くなかった。
老教師と元ぐれかけていた生徒との触れ合いも心に残るし、とりわけ、同性とのデート(?)に戸惑う男子のお話は、ユーモラスな中にも胸が熱くなるような、微笑ましくいとおしい作品で、とても好き。
ただ、公園で捨て犬をシェアするお話は、どうなんだろう、少し中途半端に感じました。
つまり、荒唐無稽でぶっ飛んでいても、そこに一片のリアリティーがあれば、それで物語は成立してしまうし、一方、本当にリアルで説得力がある、という場合もある。
そのどちらにもなりきれていない感じ。
要するに、現実味がなくて、かといって、「ありえない設定だけど、一定のリアリティーがあり、説得力を感じる」というものにもなっていない。
正直、この作品は、世に出していいレベルか微妙。
素人が新人賞に応募したら入選するかもしれない作品、のような。
プロの作家としては、いただけない、気がする。
翻ってみれば、『僕の明日を照らして』も、同様。
この作家の、作家としての格を、むしろ下げる効果しか与えない作品だった、のではないかと思ってしまう。
もちろん分かる。虐待をテーマに取り上げたかったこと、なおかつ、加害者には加害者の、他からはうかがい知れない苦悩があるということ、そして被害者と加害者であっても、その間には憎しみ合う以外の何かもっと違う形での関わり方があるはずだ、それを描きたい、という作家としての野心。
でも、結果として成功しているとは言い難い。
好きな作家ですが、どこか不安定で、うまくないところがあるとも感じる。
でも、まだ若いし、たくさん書いていけば、中にはうまくない作品もあるだろうけど、いい作品のほうが数は多いし、どんどん書いていくうちに、その割合は、きっと高くなっていく。
あるいは、そういう中途半端なところも含めてこの作家の持ち味なのだと、読者として割り切るべきなのか。
うーん。たぶんそれは違う。
すごくいいものを持っている、他の作家にないものを持っている作家で、大好きな作家だから、だからこそ、いい作品をたくさん書いてほしいと心から願うものである。
偉そうだったかもしれないけど、元書籍編集者として、このぐらいは許したまえ。
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ベタぼめする予定だったのに、なんか酷評みたいになってしまった。
でも、本当に心温まる、優しい気持ちになれる、素敵な一冊でした。
オススメです。
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No title
思わずふふっと笑ってしまったり、ウルッとなりそうになったり。
とても温かい短編集でした。
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